2017年版 長江サイドカーが欲しいアナタへ

 
今から7年前に長江サイドカーの入手に関するアドバイス的な記事を書いたのですが(未だにそのページへアクセスをしている人が一定数存在する)、さすがに今の目で見ると古さや粗がかなり目立つので、長文とはなりますが新たに書き直しをしてみました。
 
2010年当時とは入手するための状況が変わっていたりしますが、「長江が欲しい」という人の参考にでもなれば幸いです。
 
 
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【外観】
 
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中国で作られたオリジナル状態のCJ750長江サイドカーは、旧東側の軍用車両でよく見かける、若干明るい緑色で全体が塗装をされています。自分みたいな旧ドイツ軍風の外見にしたい場合は、別の色で新たに全塗装をする必要があります。
中国人民解放軍でも長江サイドカーは長年に渡って伝令・偵察用途で使われていましたが、北京オリンピックの頃を境にして現在では嘉陵JH600Bサイドカー※1)へと更新をされています。
 
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長江は中国に赴任した海外企業の現地駐在員達にも密かな人気があり、北京や上海などの大都市には、そんな彼らを対象とした長江専門のツーリングクラブやオーナーズクラブも存在します(欧米の好事家の間には、そこそこ長江の名が知られていたりする)。そして中国での勤務を終えて本国へ帰国をする際には、その物珍しさから長江を「お土産」として購入し、海上コンテナに載せてそのまま持ち帰る人も多いと聞きます。
 
 
長江は大まかに分類すると3つのタイプがあります。しかし、それらの車体の外見はほぼ同一なので、搭載しているエンジンで区別をつけています。
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CJ750M1
電装:6V
構造:水平対向SV(サイドバルブ)
出力:22馬力
ミッション:前進4段
始動方式:キック
備考:手動進角
1957年当時、中国の友好国であったソビエト連邦による技術協力で作られた最初の長江。中身はBMW R71やIMZ M72そのままである。
 
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CJ750M1M
電装:12V
構造:水平対向SV
出力:24馬力
ミッション:前進4段/後退1段
始動方式:キック/セル
備考:左側面にデスビとポイント
M1からM1Mへのマイナーチェンジの中身としては、電装が12vに強化をされてセルモーターとバックギアが搭載、点火時期の調整もレバーによる手動操作から遠心ガバナーを用いた自動進角となった。以上、これらの改装で一気に使い勝手が向上し、馬力も少しだけだがUPした。
しげーの長江はこのタイプです。
 
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CJ750M1S
電装:12V
構造:水平対向OHV
出力:32馬力
ミッション:前進4段/後退1段
始動方式:キック/セル
備考:左側面にデスビとポイント
吸排気弁の構造が旧来のサイドバルブからOHVへと進化をしたM1Sだが、シリンダー周辺以外はM1Mと同一となっている。全体的な作りや雰囲気としては、ウラル650のエンジンにもどことなく似ている。
 
 
 長江の兄弟車
 
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KMZ Dnepr ドニエプルサイドカー MT-10/MT-16
今ではちっとも見かけなくなってしまったウクライナ生まれのドニエプルサイドカーだが、冷戦終結前後の1980~90年代には、そこそこの台数が日本へ並行輸入されていた。この当時、共産圏で製造されたサイドカーといえばドニエプル(ともう一つはチェコスロバキア製のJAWA 350)であった。
シリンダーのヘッドカバーにある横4本のリブがドニエプルの証になっている。
 
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IMZ Ural ウラルサイドカー Gear Upサハラver
地道な宣伝活動による周知と全国的な販売網の拡充、以前からの弱点であった電装系や足回りの強化、そして日本における最大のセールスポイントである「二輪免許ではなく普通自動車免許(AT限定は不可)で運転が可能」という2WD構造により、今やサイドカー界隈の一大勢力とまで成長したウラル。しかし日本への上陸そのものはドニエプルよりも少し遅く、ソビエト連邦崩壊後の1993年にヤマハオートセンター(現:レッドバロン)の手によってまとまった数の並行輸入が行われ、後にサクマエンジニアリングを経て現在ではウラルジャパンの正規輸入に完全移行となった。
新車販売価格は1台193~256万円。10年前の2007年頃だと手元に140万円ほどあれば買えてしまうくらいに安価で手頃なサイドカーであったが、今では大幅な値上がりをして200万円超えという高級オートバイの位置にある(ウラルで一番メジャーなGear Upの場合、本体価格214万円とは別に諸費用としてさらに30万円前後が追加で必要)。それでも新車で買える側車付大型二輪としては安い部類だが。
 
長江と同じ共産圏製のサイドカーであるドニエプルやウラルも、元をたどると第二次世界大戦時にドイツで使われていたBMW R71を起源(正しくは「コピー」だが)とする兄弟車なのですが、よく見比べると様々な部分で結構相違があります。特にウラルとドニエプルは1960年代中頃からフレーム形状やエンジン設計で独自の進化・発展を歩み始めたことにより、R71の面影は次第に消えていきました。
だが、長江はそれら2車種とは違い、ほぼ半世紀近くそのままの構造で生産され続けた結果、1930年代当時のBMW(とM72)の雰囲気を21世紀の今日でも色濃く残す貴重なサイドカーとなっています。
 
 
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横から見るとBMW・長江のフレームの形状は直角三角形(プランジャ式サスペンション)、近年のウラルやドニエプルは長方形(スイングアーム式サスペンション)となっているので、両車の違いは一目瞭然です。
画像は上から順に…
1938年式 BMW R71 (SV プランジャ) 後にM72の開発母体となる
1966年式 CJ750M1M 長江 (SV プランジャ) しげー所有
1957年式 IMZ M72 (SV プランジャ)
1959年式 ウラル M61 (OHV プランジャ)
1960年代のドニエプル K750 (SV スイングアーム)
1970年代後期のドニエプル MT-10-36 (OHV スイングアーム)
1990年代中~後期のウラル650 Tourist (OHV スイングアーム)
2008年式 ウラル750 Gear Up (OHV スイングアーム)
参考:中期生産型 BMW R75 (OHV リジッド)
参考:1943年式 Zundapp KS750 (OHV リジッド)
参考:1941年式 BMW R12 (SV リジッド)
 
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そして最近ではM72に先祖返りをしたようなスタイル(あくまでも「それっぽい感じ」ですが)を持つウラルM70サイドカーがウラルジャパンより販売されています(要:大型二輪免許)。価格は214万円。
 
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※1
長江の後継として新たに部隊配備をされた嘉陵JH600Bサイドカーですが、実は日本でも入手が可能です。千葉県柏市にあるサイドカー専門店オクトランが2016年の春より並行輸入販売をしています。価格は220万円(国交省認可済 要:大型二輪免許)。
そしてこの嘉陵JH600Bには一般的なサイドカーとは違い、ハンドルを操作して前輪を切ると側車輪も連動して同方向へ切れるというギミックが搭載されており、狭い場所におけるUターンでも見た目以上に小回りが効きます。
 
 
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【運転免許】
 
長江は2WDのウラルやドニエプルと外見はよく似ていますが、後輪と側車輪を同時に駆動をさせるフルタイム/パートタイム機構は有していないので、普通自動車免許で運転はできません。
長江に乗って公道を走るには大型二輪免許が必須です。
 
もしも大型二輪免許を所持していないのなら、自動車教習所へ通うか運転免許試験場の一発試験で頑張って取得してください。
 
 
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【入手するには】
 
10年前から本国スタッフによる正規ディーラーが置かれているウラル大阪市港区に店舗を兼ねたショールームがある)とは違い、長江には正規の販売店・代理店が国内に無いため、手に入れるには並行輸入が前提となります……が2017年10月現在、中国から並行輸入販売をしている業者は(自分が知る範囲では)残念なことに存在しません。
4年ほど前までなら福岡県にある田中商会が通関証明書&現地書類付で1台50~80万円で販売をしていましたが、実際のところ全然売れなかったらしく、その後しばらくして長江の並行輸入業からは完全に撤退をしてしまいました。
 
よって今の日本で長江を入手するには
1:ヤフオクに出品されているのを入札して競り落とす
2:バイク屋の店頭に中古車として陳列されたものを購入する
以上の二択となります(※2)。
 
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ヤフオクなどにおける長江の相場は、程度にもよりますが25~80万円前後とやや上下に幅があるものの実はそれほど高価ではありません(他の中古サイドカーの値段と比較をしては、ですが)。ただし、日本国内に存在する長江のタマ数は兄弟車であるウラルと比べると圧倒的に少ないため、探し出して手に入れるには相応の運と努力と覚悟と根気が必要になります。
それとガレージや物置に保管をされたまま長い年月放置され、ろくに整備すらされていない個体が出品されることも珍しくないので、物によっては状態が極端に悪かったり、ひどい場合には赤錆まみれ、欠品だらけの完全な不動車となっているものもザラだったりします(※3)。
 
さらに注意したい点として、ヤフオクでは以前から数ヶ月~半年に一台程度の頻度で長江が出品されますが、その大部分は登録が不可能な書無し車か、存在そのものが100%違法な軽二輪登録車(※4)です。完全な観賞目的と割り切って自宅の車庫に飾ったり、分解して部品取り車として活用するならまだしも、法的に見るとこれらは公道をまともに走れるものではありません。落札して出品者へ代金を支払った後に真相を知って泣きを見ないためにも、そのような素性の怪しい&疑わしい車両には極力手を出さないよう、十分に気をつけてください。
また、バイク屋での店頭取り扱いに関しては、栃木県大田原市にあるモーターサイクルショップイワモトが以前(5年くらい前)はしょっちゅう中古の長江を販売していましたが、今では全然見かけなくなりました(ウラルの新車と中古車は定期的に仕入れているみたいですが)。
 
ちなみに国内で一番多く生存している長江はM1で、M1MとM1Sは少数派です。それぞれの割合としては5:3:2くらいではないかと思っています。
 
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上の新聞切り抜き画像は、どにぺれ会掲示板の過去ログにアップされていたものをお借りしました。
稀にヤフオクフェンダーやフレームはサビで腐ってグサグサ、タイヤと塗装は劣化してボロボロ、だけど書類は全部揃っている……という状態で出品される、燃料タンクと船の側面に龍の絵が描かれた6v電装のM1長江は、35年以上も昔(1970年代末)に石川県の業者によって並行輸入・販売をされた個体だったりします。以前、この事を色々と調査をした山梨のウラル乗りである保坂氏の情報によりますと、合計で150~200台ほどが中国から日本に向けて輸出をされたらしい(?)です。
とはいえ、その中にきちんと整備や修理をされ、今でも車検を通して走行が可能な個体は、いったい何台が残っていることやら……。
 
 
※2
自身の手で直接、中国本土から1台まるごと個人で輸入をするという方法もあるにはありますが中国当局や税関、現地運送会社との輸出手続き、言語の壁、船会社への積み込み手配、海外通貨(人民元や米ドル)による高額な支払い、日本到着後の通関処理などそれぞれの工程にそれなりの知識や経験がないと難しいので、はっきり言うとお勧めはできません。
そして仮に中国から問題なく輸入ができたとしても、現在の運輸局が長江に対して新規に登録許可を出す可能性はかなり低いと思われます。特にここ最近は自動車・バイクを問わず並行輸入車の事前審査が以前よりも厳格化されているため、通関証明書以外の書類関係(主に製造年の生産確認書など)で少しでも疑義があると門前払いにされる傾向が強い、と聞きます。
 
※3
他の車やバイクでもそうなのだが、程度良好な個体を長年整備しながら大切に乗り続けているような人は、そう簡単にネットオークションなどで安く手放すことはありません(所有者が死亡後、遺族がその価値を知らずに処分目的で出品する場合などは除く)。なので、もしも何らかの理由により今ある愛車を手放さざるを得ない事態に陥ったとしても、大抵の場合は昔から付き合いのある友人やショップに譲渡、売却をして未来を託すことが多いです。
それと現行のウラルの新車が200万円を軽く超える価格で販売をされ、その趣味性の高さと滅多に見かけない珍しさが相まって、中古車市場においては多少古い年式のウラルでさえも実はそれほど値は下がりません(レア車ゆえに近年では売却価格【リセールバリュー】も高値で安定気味)。そしてこの中古ウラル相場に引っ張られる形で、状態の良い長江には100万円以上の値段が付けられることもあります。
 
※4 
書無し車 車検証や一時抹消登録書(俗に言う廃車証明書)が紛失などにより手元に無い状態の車をいいます。こうなると特別な場合(前所有者、またはその親族が再発行に協力してくれる等)を除いて完全なお手上げ状態となり、運輸局での登録はできません。勿論ナンバーを付けて公道を走ることも不可能です。
車検証、廃車証明書以外には、日本へ輸入をした時に税関窓口から交付をされる自動車通関証明書の紛失も書無し車に含まれます。念の為に一応書いておきますが、国内未登録車の通関証明書は、車検証などと違って二度と再発行はされません。紛失をしたら「それまで」です。
軽二輪登録車 排気量250cc以上のオートバイを日本の公道で走らせるには、運輸局で正規の登録と車検を通すよう法律で定められていますが、その登録時に不正な書類を提出することにより普通二輪(251~400cc)・大型二輪(401cc以上)としてではなく車検不要の軽二輪(126~250cc)で登録をして、車体に軽二輪用のナンバープレートを装着することをいいます。残念ながら国内にある長江は、排気量の数値を偽って軽二輪で登録されたものがとても多いのが実状です。
上で説明したように長江は750ccという排気量からして紛れもない大型二輪車なので、この行為が警察や運輸局に発覚すると、脱税や無車検車運行の罪で検挙されます。免許証の残り点数や前歴によっては免許取り消し処分も覚悟して下さい。そして、違法な軽二輪登録車で運転中に交通事故を起こしてしまうと、たとえ任意保険にきちんと加入をしていたとしても、保険会社は保険金を1円たりとも支払ってはくれません(書類に虚偽記載をして違法に登録されたオートバイなので、当然だが保険金支払いは免責される)。もしもその事故が人身死亡事故となった場合には冗談抜きで大変な事態になります。
しかし、30年以上昔に作られた古い外国製バイクと古い国産逆輸入バイクでは、こっそりと軽二輪登録をして走っている人が未だに多かったりします(特に排気量が300~500ccのバイクで顕著)。
 
 
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【運転】
 
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まず、これは長江だけに限らないのですが、足回りが左右で非対称となっているサイドカーで道路へ走り出すと、普通の自動車やバイクとは全く違う、サイドカー特有の『癖』『挙動』が発生します。
長江は右船(運転席から見て右側に側車が固定されている)なので、それで解説をすると……
 
・左右へ曲がるには肩と腕の力を使ってハンドルを大きく動かす必要がある
・停止状態から発進すると側車(右)の方向にハンドルが取られる
・走行中にブレーキを効かせると本車(左)の方向にハンドルが取られる
・減速せずに右カーブへ進入すると、荷重と遠心力の影響で容易に側車が浮く
・右へハンドルを目一杯切ると小さな半径のUターンができる
・左へハンドルを目一杯切ると大きな半径のUターンができる
 
このため、運転者にはサイドカーが自動車でもバイクでもない「特異な乗り物」であるということを十分に認識をした上で、安全かつ確実に操縦をするテクニックが要求されます。なのでサイドカーの運転に不慣れな人は、いきなりツーリングへと出かける前に、広い空き地や公園の駐車場などできちんと練習をして、サイドカーの癖と感覚をしっかりと身体に叩き込んでから公道デビューをした方が無難です。
それとカーブの走行は、ある程度運転に慣れたとしても要注意です。今年8月には北海道札幌市で、一家3人の乗るウラルサイドカーが走行中にカーブを曲がりきれずに路外へと逸脱する死傷事故 が発生しています。
 
 
長江の走行性能そのものは、郊外や農村部の平坦路をトコトコと走る限りそれほど不満はありません。ツーリングでは4速40~50km前後でのんびりと流しながら走るのが一番快適で、なおかつとても面白いものです。今どきのオートバイでよくある、吹き飛ばされるような加速感や暴力じみたパワーなどではなく、「遅さを堪能できる牧歌的なサイドカー」というのは、このご時世に貴重な存在だと思います。
逆に交通量の多い幹線道路やバイパスを走る時には、周囲の車の流れに乗るために意外と気を使います。時速60kmでの巡航も一応は可能ですが、肝心のドラムブレーキの効きがやや心もとないので、前方を走る車とは安全のためにも若干長めの車間距離をとる必要があります。
山道の走行では下りはいいとして、上りは言わずもがな。パワーが無いのでギアを4速から3速へと一段落として、ひたすら忍んでジワジワと登坂車線を走ります。片側一車線の場合はチンタラ走って後方がつまりだしたら、素直に左へ寄せて後続車へ追い越しをさせないと彼らの顰蹙を買うことになります。注意しましょう。
 
えっ? 「高速道路ではどうなんだ」って? 巡航スピードが80km以上に届かない長江で高速を走らせるのは、エンジンやミッションに強い負荷がかかるので完全に自殺行為ですよ? さすがに自分も長江で高速道路を走らせよう、と考えるほど命知らずではありませんので。
…というか、サイドカーで高速道路をガンガン走りたい人は、長江ではなくて現行のハーレーやゴールドウィングの側車付きを購入した方が身のためかと思います
 
 
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【エンジンフィーリング】
 
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長江が搭載しているエンジンは排気量746cc、4ストローク空冷式サイドバルブ水平対向2気筒というものです。
出力はM1で22馬力、M1Mは24馬力、構造は違いますがM1SのOHVでは32馬力となっています。同排気量のホンダCB750(RC42)が75馬力、100cc小さなカワサキNinja650が68馬力なのと比べると数値的にはものすごく非力……なのですが、このような低馬力の古臭いエンジンでもギアをしっかりと合わせてスロットルを回せば、350kgを超える重たい車体を粘りながらもグイグイと前へ引っ張ります。
エンジン音はハーレーやドゥカティみたいに聞き惚れるような音ではなく、どちらかというと昔の耕運機やエンジン発電機みたいな、いかにも「産業機械的な駆動音」というバサバサ・バタバタとした軽い音がします。
 
それと21世紀の現代ではまず目にすることがないであろう、古色蒼然としたサイドバルブ方式のエンジンですが、構成する部品が少なくとてもシンプルなので、オイルさえ切らさなければちょっとやそっとで壊れないくらいに頑丈かつ高い信頼性が特徴です。しかし空冷は水冷より冷却効率が劣るので、1時間走ったら余裕を持って10~20分ほど休ませるとオイル、エンジン共に負担がかからず長持ちします。
 
 
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【燃費・維持費】
 
自分の長江の燃費はおおよそ11~12km/L、使用油種は一般的なレギュラーガソリンです。燃料タンクの容量は22リットルなので、航続距離はリザーブ分の2リットルを含めると約240km前後になります。キャブレターの流量を微調整してもう少し絞ればあと数kmほど燃費が伸びるらしい(?)のですが、下手にいじってガス濃度が希薄になってエンジンブローをすると怖いので、わずかに濃い目の設定としています。
 
月々の任意保険代はその辺を走っている大型バイクと同額で、古いサイドカーだからといって特別料金とかにはなりません。2年に一度の車検も、自身の手で整備をしてから運輸支局へと持ち込むユーザー車検なので、検査料と自賠責と重量税を含めて2万円もあればお釣りが来ます(ただし重量税は新規登録から10年以上が経過しているので3割増になってはいるが)。
なお、長江サイドカーの車検証における車体の形状は、乗車定員3人の側車付オートバイで登録をされます(リアシートが外された車体では定員2人となる)。もしも横にサイドカーが付随しているにもかかわらず車体形状がオートバイのままで記載されていると不正改造車として取り締まりの対象になるので、サイドカーを取り外して単車にするか、運輸局で形状変更の手続きを済ませてください。
 
普段の保管は屋根付き車庫かカーポートの利用を強く推奨します(全幅が普通自動車とほぼ同寸なので、自転車・オートバイ用駐輪場にはまず入りません)。これはなぜかというと、長江は灯火類と座席とタイヤを除く車体のほぼ全てが鉄製なので、カバーもせずに剥き出しで青空駐車をすると雨の影響ですぐにサビて無残な姿となるからです……というか、防水加工をされたバイク用カバーを上からかぶせても、露天で保管だと結構危険です。
国内に現存する長江は数が少なく貴重なので、できるだけ丁寧に扱いましょう。
 
 
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【整備・修理】
 
長江は化石並に古い構造をもつ超マイナーなサイドカーなので、街中にある一般的な量販バイク店(2りんかんやライコランド等)へ整備を依頼しても、恐らくは店員に嫌がられてやんわりと断られる可能性が高いです。
この手の水平対向エンジン搭載バイクの専門店としては、千葉県野田市にあるミュンヘナーBMWやウラルを得意とするクリメカがつとに有名ですが(同じ水平対向である長江に対してもかなり造詣が深い)、ここも日本全国から常に依頼が舞い込んでいるので、オーダーが混んでいると断られることがあります。
次善の策としては、昔からある個人経営のバイク屋とかだと受けてくれる場合があります。さらにそこの店主が陸王メグロなど古いバイクのレストア経験があれば、その可能性は高くなるでしょう。
まぁ、一番良いのは工具やパーツリストを揃えて自分で整備をすることですが。
 
部品に関しては、中国の大規模通販サイトであるタオバオから、ほぼ全てが入手できる(供給量としても恐ろしいほどに潤沢)ので心配はありません。ただし、部品の価格そのものはかなり安いのですが、日本への送料がネックになる場合があります。詳しくは以前書いた過去記事を参照としてください。
 
 
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【快適性】
 
そんなものはない。
そのようなものがお望みなら、最新の国産オートバイをお勧めします。
 
強いて言うならば、側車に乗った人のほぼ全員が「ゴツい見た目に反してサイドカーの乗り心地は意外と良い」と評価をしているくらいかと。だが、自分は長江の持ち主でありながら、未だに横の側車へ乗り込んで走ったことはないが……。
それと左右に大きく張り出したシリンダーからの排気熱は、見た目ほど足には直撃しないのでそれほど心配をする必要はありません。
 
 
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【故障・トラブル】
 
旧車イベント会場やツーリング先の道の駅で、周囲の人たちから頻繁に聞かれる質問が「えぇー、これ中国製のバイクなの? ……それって大丈夫?」「中国が作るものは質が低いから、走らせてもどうせすぐに壊れるでしょ?」というやつだ。
たしかにトラブルが全然無いとは言わないが、過去12年間所有していて致命的だったトラブルは走行中に後輪のギアの歯が砕けた(2009年夏)のと、同じく走行中に既存のプラグコードの被覆が破けて短絡し、ヒューズが連続で切れまくった(2007年秋)ことぐらい(※5)。そして意外なことに、そのどちらもロードサービス(積載車)のお世話とならずに、トラブル発生現場から何とか自走で札幌まで戻ってくることができた。
 
自分も2005年に長江を手に入れた当初は、書店にあるバイク雑誌はおろか、ネット上にすら長江に関する日本語で書かれた詳しい情報が全然なくてとても不安だったし、細かな不具合も多々発生したが(※6)、現在では「大したトラブルを起こさずに往復合計250kmの日帰りツーリングもできるし、本当にタフなバイクだ」と逆に感心しています。
まぁタフでなかったならば、40年以上もの長い期間に渡って人民解放軍で正式採用などされてはいませんが。
 
ただし、こうなるには大量生産された機械類にまま見られる【アタリ】【ハズレ】という個体差(自分の長江はどちらかというとアタリだと思う)を考慮したり、不具合が表面化・深刻化をする前に、わずかな異変を察知するために「五感」を野生動物並に研ぎ澄ます必要があります。が……とりあえず、長江はスーパーカブやセローみたいにメンテナンスフリーで乗れるようなお気楽バイクでないことは確かです。
なにせ基本設計が75年以上も昔のサイドカーなので、マメに整備・点検をして労りつつも、気をつけながら走るのが一番重要かと思っています。
 
 
※5
ここ最近にあった大きなトラブルとしては、2015年秋に日高のトンネル内でバッテリーあがり&接触事故 を起こして周囲へ迷惑をかけてしまったのがありますが、これは自分が普段のバッテリー充電管理を疎かにしていたのが原因なので、長江そのものが悪い訳ではないと考えています。
後輪ファイナルギアの修理・交換については、5年前の日記に顛末が書いてあります。
プラグコードの被覆破けによる短絡は、永井電子製シリコーンパワープラグコード BMW R80/100用に交換をしてからは症状も再発せずに安定しています。
 
※6
入手から10年以上の時間をかけて故障やトラブルの種がほぼ出尽くした、というのは大きい。
ただし「ボルトやナットがいつの間にか緩んだ」「振動で配線の端子が外れた」「エンジンからオイルが滲む」などは今でも日常茶飯事だが。
 
 
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【総括】
 
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このような長々とした文章を読んでいただき、お疲れ様でした。
 
……えー、今の日本国内で長江を手に入れるには、そこそこ容易であった数年前とはがらりと変わってかなり厳しい状況に置かれている訳ではありますが、サイドバルブ方式の水平対向エンジンを搭載したサイドカーという希少性と、原型である1930年代のBMW R71のスタイルを、ほぼそのままの形状で維持をしているというクラシカルさで所有欲も満たされるので、非常に満足度の高い一台ではないだろうか、と自分は常々思っています。
 
現代の高性能な国産最新オートバイと長江を比較すると、当然ですがスピードは遅くてエンジンは非力、工作精度の甘さも否めません。だけども「どうせ出来損ないの中国製コピーバイクだろ」と頭から否定して馬鹿にするのではなく、きちんと丁寧に手をかけてやれば、長江はロングツーリングも難なくこなします。さらにサイドカーなので荷物の搭載量は大きく、周囲からの注目も嫌というほど浴びることが可能です。
どうです? この楽しさ、面白さを一度味わってはみませんか?