釧路コールマイン見学記 その2

会議室で坑内の説明を受けた後、ついに坑内見学が始まります。
それと、今回は事前に言われてた掘進現場ではなく、採炭現場(切羽)を見学することになりました。
 

我々が採炭中の切羽を見学できるというのは、実はかなり幸運なことで、これについて炭鉱ナビの引率兼同行責任者である高橋事務局長は、帰りの車内で「私は過去に6回釧路コールマインの見学会で入坑をしているが、切羽を見れたのは2回だけ。他は全部掘進現場でした」と言っていました。なぜそれほどまでに貴重なのかと言うと、釧路コールマインでは1年(12ヶ月)の内、実際に採炭が行われているのは4ヶ月程度で、残りの8ヶ月は掘進作業や機材の設置・撤収などが中心となっており、10月開催の見学会に採炭作業のタイミングがうまく合わないと見ることが不可能だからです。
いやー、こんな偶然ってあるんだなぁ……。

さて、ここから先はカメラの持ち込みが禁止なので、以前某氏から頂いた太平洋炭鉱の動画からキャプチャした画像を使いつつ、色々と書いていきたいと思います。
 
 
-----------------------------------------------------------------------------------------
 
まずは繰込所の手前にある会議室みたいな場所で、バッテリー&キャップライト、ヘルメット、防塵マスク(使い捨て)、CO用自己救命器を装備します。
バッテリーは今まで見てきたものとは違い、かなり小さくて(箱ティッシュの半分くらいの大きさしかない)腰に下げてもそれほど重さを感じませんでした。ただし鉱員の人達は普通の大きさのバッテリーを下げていましたが。
自己救命器は「使うような事態になったら着用の指示をしますので」とのこと。見学中にガス突出や坑内火災が起きないことを心の中で祈る。
キャップライトはダブル球(自動車のブレーキランプと同じ)で、一つが切れてもスイッチを切り替えるとまた点灯することができ、さらにもう一回スイッチを回すと手元の電球がつく……と思った(試す前に繰込所へ移動したので)。
 

イメージ 1
 太平洋炭鉱 飛翔 技術編より
繰込所では案内役の鉱員の人達が5人ほど既に待っていました。
そして入坑前に全員で記念撮影をした後、キャップライトを点灯して(これで出坑まで消すことはない)恒例の指差称呼をします。
「今日も1日ゼロ災害でいこう!!」
「ゼロ災害でいこう、ヨシ!」
「ゼロ災害でいこう、ヨシ!」
「ゼロ災害でいこう、ヨシ!」
左手は腰に当て、右手を大きく振り下ろす動作を全員で3回大声で繰り返した後、捜検を受けて人車乗り場へ移動します。
 

イメージ 2
 太平洋炭鉱 飛翔 技術編より
連卸(全長:1645m 最大傾斜:10度30分)の斜坑人車。
11輌編成で最大242人の乗車が可能ですが、今回は見学者18人と引率の鉱員の人達しかいないので、ほぼ貸切みたいなもの。なので狭い車内もゆったりと座ることができました。
そういえば釧路コールマインの斜坑人車といえば、横に手で下ろす小さなシャッターがあるのですが、下げようとしたら鉱員の方から「それは冬の寒い季節に風を防ぐためのものなので、今時期はしなくてもいいよ」とのこと。また一つ賢くなりました。
そのかわり、横から落ちないように鉄の棒でしっかりとロックします。
 
ベルの音とともに人車は10時丁度に発車。
ガタンと揺れたかと思うと、そのままスーッと斜坑を下っていきます。斜坑内部はコンクリート巻で、一般的なトンネルとそれほど違いはありません。
人車の速度は時速21km。オバちゃんの運転する原付よりも遅いのですが、低い着座姿勢と相まってそこそこのスピード感を味わう。肝心の乗り心地は、もっと荒々しいものかと想像していたのですが、フランジ音が盛大な以外はまぁ普通でした。
ちなみに、この人車を動かしている巻上機はコンピュータ制御の完全無人システムなのだとか。
 
 
イメージ 3
 NHK 北海道クローズアップ(2002年)より
10時5分くらいに坑底にある人車プラットホームに到着。
連卸周辺は高い加背(4mくらい?)で、壁面全体には難燃化と補強を兼ねてトルクレットが上画像のように鉄枠の上からモコモコと吹きつけられていました。
斜坑は重要な骨格坑道だからか天井には等間隔で照明(防爆式蛍光灯)が設置されており、思っていたほど暗くはありません。
それとこの坑道は、新鮮な空気が流れる入気坑道なので結構な風圧を感じます。

降車した見学者の人数確認が終わると、全員で切羽に向けて歩き出します。
 

イメージ 4
入坑前にもらった2012年10月現在の坑内図(2度に分けてスキャニングしたので、下端はちょっと色が変わっています)。現在釧路コールマインで稼働している切羽は一つのみ(上部中央下層切羽 炭丈2.7m)。
ルートは赤色の線で片道約1700mほどあります。
 

連卸の横にある坑道(上の構内図だとU字形の部分) を全員でワイワイガヤガヤと賑やかに歩いていきます。
途中に3ヶ所ほどある風門(通気を制御する大きな木製扉)を通過すると、少しづつですが空気が湿り気と土のような臭いを含むようになり、次第に質が悪くなっていく(汚れた空気:排気)のがわかります。
そして引率鉱員の方からこの辺で防塵マスクとゴーグルを着用するように指示を受ける。

突き当りである2号SDゲート坑道に着く頃になると、もう天井に照明は無くなり、 明かりといえば自分たちのキャップライトくらい。機械類の音だけが響く漆黒の闇です。
ここから先は傾斜5度前後の緩やかな下り坂となっています。地面はガタガタして歩きづらいので、炭車・鉱車用レールの間に敷いてある枕木や坑木の切れ端を踏みながら前へ進みます。
 
 
イメージ 5
 太平洋炭鉱 飛翔 技術編より
2号SDゲート坑道の脇には石炭を積んだベルトコンベア(運搬能力:1800t/h)が唸りを上げて動いていました。
ただし、手足の巻き込み事故などを防ぐため、上画像のようにむき出しではなくプラスチック製の防護ネットが側面に下げてありました。
途中で坑道の仕繰り作業をしている鉱員が3名ほどいました。
 
 
イメージ 6
 NHK 北海道クローズアップ(2002年)より
このように真っ暗な中をただひたすら歩きます。距離が長くて辛くなってきたのか、他の見学者は口数も少なくなっていました。
地上で1700mだと、自分の場合はのんびり歩いても20分もかかりませんが、足場と視界の悪い坑内では小幅で進まざるをえないのでずっと時間がかかります。
4号SDゲート坑道に差し掛かる辺りで盤膨れの補修作業に使うであろうバックホーが2台、下盤打ち機(案内役の人は「ザルツギッター」と呼んでいた)が1台坑道の隅に置いてありました。
 
斜坑人車から軽く25分以上は歩いただろうか……横にあったベルトコンベアもいつのまにかシングルチェーンコンベアに代わり、いよいよ切羽に近づいてきたと感じる。
足元は坑内から滲み出る地下水でぬかるむ水溜りとなり、何度か滑りそうになる。
 
 
イメージ 7
 太平洋炭鉱 飛翔 技術編より  これは1980年代末頃と思われる。
遂に採炭作業中の切羽に到着。時計を確認するのを忘れたが、多分35~40分は歩いていただろうか。
実際に目の前で、直径1.8mのドラムが盛大な音を立てながら炭層を豪快に切り崩している。シールド型自走枠の上部には炭層に向けて照明が設置されているので、今まで歩いてきた坑道と比べるとずっと明るい。

ここでサプライズ(という訳でもないだろうけれど)。なんと自走枠を実際に動かすのを見せてくれるのだという。
この切羽で使われている自走枠はCPUを内蔵した非常に高性能な自走枠で、ボタン一つで鉄柱収縮→コンベア押し出し→自走枠前進→鉄柱伸長がされるスグレモノ。
実演してくれたのは1台だけでしたが、ウイィィーンといういかにもな駆動音とともに、まるで生物みたいに伸びたり縮んだりをする自走枠。なんだかカラクリ人形を見ている気分になる。
 
 
イメージ 8
配布されたパンフレットに載っている現在のSD採炭切羽。
使われている機材はドラムカッター:アメリカのJOY製(JOY 4LS-5)、シールド枠:ドイツのDBT製(TH-7)。
この切羽は19日前の9月26日から採炭を開始しており、切羽面長は152m。最大738tの圧力に耐えられる103台のシールド枠がセットされており、1日10mも掘り進むのだという。
 
ただ、この切羽の炭層には粘土層が結構混ざっていて、見た目ほど歩留まりが良くないとのこと。しかも過去にこの一帯では坑道展開をしていたらしく、掘り出した石炭に坑木などの不純物も混じるとか…。



目的であった切羽の見学は10分くらいで終了となり、全員回れ右をして斜坑人車を目指す。
行きはよいよい帰りは怖い。行く時には緩い下り坂だった2号SDゲート坑道は、一転してダラダラとした登り坂に。
息のこもる防塵マスクを装着しているせいもあって、呼吸が上がり気味になる。
自分は引率鉱員の人達のペースになんとか付いて行ったが、他の見学者数名が遅れているみたいだ。真っ暗な坑内でグループが引き離れて分裂するのは良くないので、少し距離を詰めるためここで小休止。

3分ほど休んだ後、再び前進。後ろのグループとは多少は距離が縮んだみたいだ。
この坑道は汚れた空気(排気)が流れているため気温20度、湿度80%という環境。歩くたびに汗をかいてシャツやズボン下がじっとりとしていくのがわかる。
 
 
イメージ 9
 NHK 北海道クローズアップ(2002年)より
SDゲート坑道もそろそろ終わりそうかな、というときに第2のサプライズ。ふと、引率鉱員の人達が「記念に好きなだけ持ち帰ってもいいよ」と坑道の側面を指で差して言う。 よく目を凝らすと、アーチ枠と坑木の隙間から炭層がキラキラと光って顔を覗かせているではないか(基本的にゲート坑道は沿層だから当たり前か)!
引率の人が持つピッケルで軽く叩くと、ガラガラボロボロと崩れて手頃な大きさの炭塊がいくつも転がってくる。
という訳で、お土産用に手頃な大きさの石炭を2個ゲットしました。
釧路コールマイン自慢の春採夾炭層6000カロリーの非粘結性一般炭。カロリーが凄いから、ブリキの薪ストーブで燃やすと簡単に穴が空く。火事は必至だ(よい子は真似しないように)。

お土産を持ちつつ5分ほど歩くと、来る時に通過した風門を通る。と同時に強い勢いで新鮮な空気が周囲を流れていく。
「この冷たい綺麗な空気を吸うとね、『生き返った~』って気分になるんだよ」と前を歩く鉱員の人がつぶやく。
ああ、その気持ちすごくわかります。なぜなら自分も今実際に体験しているから。
 
11時32分 斜坑人車のプラットホームに到着。
既に人車が待機しており、あとは乗るだけ。同行していた鉱員曰く「帰る時は入る時と違っていつでも上がれるんだ」とのこと。
座席に座り、横の鉄棒をセット。ベルの音がして人車はゆっくりと登っていく。車内に巻き込む風が涼しい。
 
11時37分
繰込所に到着。
驚きばかりだった坑内見学はこれにて終了。
 
その後、坑口浴場に通されて15分ほどだが身体についた炭塵を落とすための入浴タイム(実際は大して汚れていないが)。しかも一人ひとりにわざわざシャンプー・リンス・石鹸まで用意してある丁寧ぶり。なんだかこちらが恐縮してしまう。
炭鉱の風呂はデカいぞと親父から常々聞いていたが、ここの風呂も大きかった。浴室内には4つの湯船があり、そのうち2つ(洗い湯と上がり湯)に湯が張ってありました。湯船の大きさは3m×6mくらいの長方形でかなり深い(湯船の底に尻をつけようとすると溺れる)。お湯の温度は熱くもなく温くもなく、丁度いい適温でした。

あと、どうでもいいことですが、坑口浴場のドアには「部外者が入浴しているのが見受けられます。関係者以外は入浴しないように」という内容の張り紙がありました。赤平炭鉱と同じく釧路コールマインにも不届き者はいるらしい。
 

入浴後、本来なら会議室に戻って坑内見学に関しての質疑応答がされるはずだったのですが、 時間が押しているので取りやめです。これは残念だったなぁ…。
だけど仕方がない。採炭中の切羽を見れただけでも相当にラッキーなのだから。
 

 
続きます。