岩波写真文庫シリーズ

炭鉱・鉱山などの資料を調べる場合、まず手をつける部分としては図書館などで「関連する本を探す」のが一般的ではないでしょうか?
(まぁ、今だとGoogleなどのWeb検索サービスのお世話になっている人も多そうですが。自分もその一人です)
 
しかし、労働組合や経営していた企業が出した本(社史や記念誌)は、中身は詳しいのですが絵や写真が少なくて固い文章ばかりなのが常なんですよね。
 「『最新型の○○用機械を導入』と書かれているが写真も無いし、どのような形なのだろう?」
 「××年に完成して、短期間だけ使用された鉱務所と立坑って…どんな外見?」
執筆した当事者達にしてみれば、普段から見慣れていて、あえて説明するまでもない些細な情報なのかもしれませんが、読んでる自分にしてみたら凄く知りたい訳でして……。
 
「文章だけではなくて写真がメインの本はないのか?」などと資料を漁りながら内心忸怩たる思いが募ったこともあったのですが、2年前にとある優れた本と出会いました。
その名は『岩波写真文庫
 
敗戦の傷も未だ癒えていない1950年頃に岩波書店から出された、写真がメインのミニパンフレット風の中綴じ文庫本です。
当時の人達に向けて、知的好奇心を満たすためにあらゆるジャンルを網羅しています。動物、植物、昆虫、建築、国家、スポーツ、芸術、自然環境、学問、産業、文化etc…。ページそのものは60p前後と大したことはないのですが、中にある写真の数やカメラマンのセンスには今の目で見ても驚愕モノです。
 
さて、前振りが長くなりましたが自分がお勧めする炭鉱・鉱山関連の本は
 【49 石炭】
 【24 銅山】
 【116 硫黄の話】
の3冊です。
(頭に付く数字は通し番号です)

【石炭】
まず、九州地方にあった各炭鉱の様子が「これでもか」と言わんばかりに載せられています。特に三井三池鉱の摩擦鉄柱とカッペで構築された長壁式切羽内で、褌一つで働く鉱員の姿は神々しさすら感じさせます。
それと全盛期の三菱端島鉱(軍艦島)の写真もあります。殆どの人は現在の瓦礫となった軍艦島しか見たことはないかと思われますが、この中にある風景は実際に住民の息吹が感じられるものばかりです。
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 水圧鉄柱の前に使われていた、摩擦鉄柱とカッペによる切羽の支保 ↑
 
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 上:坑内での昼食 下:婦人会による坑口接待 ↑

【銅山】
愛媛県にあった住友別子銅山がメインとなっています。
ここも三井三池と同じく、地下深い高温多湿の環境なので褌にキャップライトという格好で採掘しています。この本での見所は、炭鉱とは違い、支保を構築しないで大規模な切羽や坑道を作る銅山の内部と、大勢の住民や職員で活気づいていた頃の四阪島精錬所(住友社有の島。現在も関係者以外上陸禁止)が紹介されていることでしょうか。
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 稼働中の四阪島精錬所 ↑

【硫黄の話】
この本にはなんと、日本でも有数の大硫黄鉱山であった岩手県松尾鉱山が撮影されています。
住居や鉱業所の街並み、採掘中の切羽、鉱石運搬、精錬…夕張や三池などの炭鉱町に勝るとも劣らない規模の大きさに驚かされます。
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 「雲上の楽園」と例えられた松尾鉱山とその市街地 ↑
 
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 索道で運ばれる鉱石。周囲は硫黄酸化物の影響で草木は枯れて荒涼たる原野 ↑
 
石炭は3年ほど前に復刊されたので、大きめの書店でしたら入手は容易です。価格は700円+税。
他の二冊は復刊されておらず古本でも結構レアな本なので、無理して探さずに図書館で借りるのが最善と思います。
(そこそこ大きめの公立図書館なら、閉架書庫だとは思いますが確実に置いてあるはずです)